機内で耳にする音楽には、単なるBGMを超えた各社の哲学や文化、そしておもてなしの心が凝縮されています。国内外の主要な航空会社がどのようなアーティストを起用し、どのような空間を演出しているのかを知ることで、次からの空の旅がより一層ドラマチックな体験へと変わるはずです。
ここでは、日本を代表するナショナルフラッグキャリアから個性豊かなLCC、そして世界の名だたる海外エアラインに至るまで、各社が採用している代表的な搭乗音楽や名曲の数々を体系的に整理してご紹介します。
1. 航空会社が機内BGM・搭乗音楽にこだわる理由
私たちが搭乗する際、客室は旅の期待感と非日常が入り混じる独特の空間です。航空会社はこの限られた空間の中で、乗客の心をリラックスさせると同時に、自社のブランドイメージを直感的に感じてもらうための音響演出(サウンドブランディング)に力を入れています。
- 安心感と非日常の演出:離陸前の緊張感を和らげ、リラックスした気持ちでフライトに臨める環境をつくる。
- 文化的背景の表現:自国の伝統音楽や著名アーティストの楽曲起用により、搭乗した瞬間からその国の空気を伝える。
- ブランドアイデンティティの確立:機内の内装や制服だけでなく、耳に残るメロディによって記憶に深く刻み込む。
2. 日本の主要エアライン(JAL・ANA)の代表曲
日本の空を支える大手キャリアでは、国内外で活躍するトップアーティストや作曲家を起用し、洗練されたオーケストラサウンドや親しみやすい名曲を提供しています。まずは日本の双璧であるJALとANAの顔とも言える楽曲を見ていきましょう。
日本航空(JAL)では、デヴィッド・フォスターや久石譲といった世界的クリエイターが手掛けた壮大なオーケストラ曲が採用されており、全日本空輸(ANA)では葉加瀬太郎氏のバイオリンによる爽快なシネマティックナンバーが空の旅の定番となっています。
3. 各国エアライン・LCCの搭乗音楽・機内BGM一覧
日本の主要キャリアから、国内LCC、そして世界各国の個性豊かな海外エアラインに至るまで、採用されている担当者や楽曲のラインナップを一覧表にまとめました。それぞれの国やブランドが持つ独自のこだわりが見て取れます。
国内・海外エアラインの搭乗音楽・機内BGMリスト
| 航空会社名 | 国・地域 | 担当者(作曲者 / プロデューサー) | 代表曲・楽曲名と概要 |
|---|---|---|---|
| JAL(日本航空) | 日本 | デヴィッド・フォスター 久石 譲 |
『I Will Be There With You』(搭乗時) / 『明日の翼』(降機時) 搭乗時は世界的プロデューサーの洗練されたインスト、降機時は久石譲による壮大なオーケストラ曲。 |
| ANA(全日本空輸) | 日本 | 葉加瀬 太郎 | 『Another Sky』 ほか バイオリニスト葉加瀬太郎による、空の旅の高揚感を誘うシネマティックで爽快な代表曲。 |
| スカイマーク | 日本 | 川上 ミネ | 『SKYBLUE(スカイブルー)』 ピアニストの川上ミネが書き下ろした、透明感と開放感のあるオリジナル機内BGM。 |
| AIRDO | 日本 | 溝口 肇 | 『North Wing』 ほか チェリストの溝口肇が手掛けた、北海道の澄んだ空気を思わせる叙情的なナンバー。 |
| スターフライヤー | 日本 | 葉山 宏治(過去) PAX JAPONICA GROOVE(現在) |
『See you again』 / 『Breakthrough The Sky』 黒い機体と革張りシートの空間に合わせ、洗練されたモダン・ジャズやダンスミュージック寄りの楽曲。 |
| Peach(ピーチ) | 日本 | ケツメイシ | 『テイクオフ』 日本初のLCCらしく、旅のワクワク感をかき立てるポップで軽快なナンバー。 |
| AirJapan | 日本 | 冷水乃栄流(作曲) 藤原道山(尺八) |
『あい』 日本の伝統楽器である尺八や箏と、西洋オーケストラを融合させた和洋折衷のテーマ曲。 |
| ターキッシュ エアラインズ | トルコ | ファヒル・アタコール (Fahir Atakoğlu) | 『Wind of Istanbul』 ほか トルコを代表する著名ピアニスト・作曲家が手掛けた、オリエンタルな情熱とヨーロッパの気品が融合した名曲。 |
| ニュージーランド航空 | ニュージーランド | デイヴ・ドロビッチ (Dave Dobbyn) | 『Welcome Home』 ほか 国民적シンガーソングライターによる楽曲。温かいおもてなしと雄大な自然を表現。 |
| ハワイアン航空 | アメリカ | マーク・ケアリイ・ホオマル キミ・エリザベス・ジラール |
『Mele Ho'oma'ema'e』 ほか 伝統的なチャントや現代的フラの解釈を取り入れた、搭乗した瞬間からハワイを感じられる専用音楽。 |
| ブリティッシュ・エアウェイズ | イギリス | クリストファー・ガニング ほか | 『The Face of Britain』 ほか 映画音楽等の巨匠らが手掛けた、英国らしい品格と洗練されたオーケストラサウンド。 |
| エールフランス航空 | フランス | ソフィー・スー (Sophie Hunger) ほか | 『Take Off』 ほか 著名シンガーソングライターらが手掛けた、フランスらしいエレガンスとエスプリ漂うサウンド。 |
| KLMオランダ航空 | オランダ | コンラッド・ファン・アルフェン 指揮 | オリジナル・オーケストラ組曲 オランダの豊かな文化と伝統を感じさせる、気品あるクラシック・アンサンブルによるボーディング曲。 |
| キャセイパシフィック航空 | 香港 | シックスィエム・ソン / ヴィンセント・ターベ | 『Song of Cathay(ソング・オブ・キャセイ)』 世界的サウンドブランディング企業が手掛けた、東洋と西洋が交差する香港の優雅さを表現した楽曲。 |
| シンガポール航空 | シンガポール | ロハン・ド・リベラ / ドミニク・マーコット | 『The Sound of Singapore Airlines』系楽曲 伝統的なバティック柄のイメージや都市像を音で表現した上質なアコースティック・近代音楽。 |
| エミレーツ航空 | アラブ首長国連邦 | クリスチャン・サグリエ (Christian Saglie) | 『Emirates Boarding Theme』 ドバイの豪華絢爛なブランドイメージに合わせ、神秘的なアラビック・アンビエントとモダンサウンドを融合。 |
| エティハド航空 | アラブ首長国連邦 | レバノン・フィルハーモニー管弦楽団 関連 | 『The Sound of Etihad』 アブダビの豪華絢爛さとアラビア文化の神秘性を融合させた、贅沢な中東モダン・オーケストラ。 |
| カタール航空 | カタール | ダナ・アル・ファルダン ハンス・ジマー |
『The Awakening』 ほか 中東の気品とスケールの大きさを感じさせる、映画音楽さながらの重厚で美しいオーケストラ曲。 |
| スターラックス航空 | 台湾 | ピーター・ホワイト (Peter White) 等 | 『Flying High』 ほか 高級志向のキャリアとして、著名ジャズギタリストらの洗練されたジャズ・フュージョンを採用。 |
| ユナイテッド航空 | アメリカ | ジェームズ・ニュートン・ハワード ほか | 『Rhapsody in Blue』アレンジ版 ほか ハリウッドの大物映画音楽作曲家らが手掛けた、アメリカのダイナミズムを感じさせる壮大なアレンジ。 |
| デルタ航空 | アメリカ | トッド・マクレイ ほか | 『Delta Sonic Soundscape』 ブランド全体の音響ブランディングを徹底構築。心地よいアンビエントとアメリカ的な開放感を演出。 |
| ヴァージン・アトランティック航空 | イギリス | リチャード・バーンズ ほか | 『Virgin Atlantic Boarding Theme』 同社らしい、スタイリッシュなクラブカルチャーやラウンジを思わせるモダンな電子・ポップサウンド。 |
| カンタス航空 | オーストラリア | オーストラリア室内管弦楽団 関連 | 『I Still Call Australia Home』オーケストラ版 ほか 国歌に匹敵する名曲のインスト版など、広大な大地を感じさせるドラマチックな楽曲。 |
4. 機内BGMがもたらす旅の記憶とさらなる楽しみ方
飛行機の搭乗音楽は、そのフライトの思い出をいつまでも心の中に留めておくための大切なトリガーとなります。旅の終わり、目的地に到着して降機する際に流れる音楽を聴きながら、「無事に到着した安心感」と「新しい場所への期待感」に胸を膨らませた経験を持つ方も多いことでしょう。
最近では、多くの航空会社が公式プレイリストを音楽ストリーミングサービス上で公開していたり、YouTubeなどの公式チャンネルで専用のボーディングミュージックを視聴できるようになっています。次回のフライトを控えている方はもちろん、自宅で旅情に浸りたいときにも、世界各国のエアラインが誇る上質なサウンドスケープに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
心地よいメロディに身を委ねながら、耳から楽しむ優雅な世界旅行のひとときをぜひ満喫してください。